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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)109号 判決

控訴人(原告) 塚田辰男

被控訴人(被告) 国 蒲田税務署長 東京都 東京都大田区

主文

本件控訴を棄却する。

当審における請求はいずれも棄却する。

控訴審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人蒲田税務署長に対する請求

(一) 主位的請求

被控訴人蒲田税務署長が控訴人に対し、昭和五一年九月三日付でした控訴人の昭和五〇年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定は無効であることを確認する。

(二) 予備的請求

被控訴人蒲田税務署長が控訴人に対し、昭和五一年九月三日付でした控訴人の昭和五〇年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  被控訴人国に対する請求

(一) 主位的請求

被控訴人国は控訴人に対し、六〇九万円及びこれに対する昭和五一年九月七日から支払済みに至るまで年七分三厘の割合による金員を支払え。

(二) 予備的請求

被控訴人国は控訴人に対し、六〇九万円及びこれに対する昭和五一年九月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人東京都に対する請求

(一) 主位的請求

被控訴人東京都は控訴人に対し、一七四万円及びこれに対する昭和五一年一一月二日から支払済みに至るまで年七分三厘の割合による金員を支払え。

(二) 予備的請求

被控訴人東京都は控訴人に対し、一七四万円及びこれに対する昭和五一年一一月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人東京都大田区に対する請求

(一) 主位的請求

被控訴人東京都大田区は控訴人に対し、一一六万円及びこれに対する昭和五一年一一月二日から支払済みに至るまで年七分三厘の割合による金員を支払え。

(二) 予備的請求

被控訴人東京都大田区は控訴人に対し、一一六万円及びこれに対する昭和五一年一一月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  3ないし5につき仮執行の宣言

二  被控訴人ら

1  被控訴人蒲田税務署長

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

2  被控訴人国、同東京都及び同東京都大田区(各自)

主文一ないし三項同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  控訴人の主張

1  被控訴人蒲田税務署長に対する訴えの適法性について

被控訴人蒲田税務署長(以下「被控訴人署長」という。)が控訴人に対し、昭和五一年九月三日付でした控訴人の昭和五〇年分所得税の更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下、右両者をまとめて「本件各処分」ということがある。)は、東京都大田区長(以下「大田区長」という。)の控訴人に対する都民税、特別区民税に関する変更処分(以下「本件変更処分」という。)の前提をなすものであるから、控訴人が右変更処分の効力を争つている以上、その前提たる本件各処分の効力を既判力のある判決により確定することが必要である。したがつて、控訴人は、本件各処分の無効確認請求について、確認の利益を有し、当事者適格を有するものというべきである。

2  本件更正の無効についての主張の補充

租税特別措置法(昭和五一年法律五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三五条一項は、居住用建物の敷地の一部が譲渡され、そのため居住用建物の一部が取り壊わされた場合であつても、残存建物が個人の住居として不適当となつたときには、適用があるものと解すべきである。そして、残存建物が個人の住居として適当であるかどうかは、現在のわが国の生活水準に照らし、当該世帯が健康で文化的な生活を確保しうるかどうかによつて定めるべきである。ところで、昭和五一年三月二六日閣議決定を経た「第三期住宅建設五箇年計画」は、昭和六〇年を目途として、すべての国民に確保すべき最低居住水準の目標を定め、この水準以下の居住の解消を図ろうとしている。そして、控訴人の世帯のように成人二人のための最低居住水準は、個室二室、パブリツク・スペースとしてダイニングキツチン一室及び衛生部分(浴室、便所等)一区画存することが必要であり、住戸面積は少なくとも三四・三一平方メートルが必要である。

ところで、控訴人は、本件土地を訴外大坂友文に引き渡した際に、本件家屋の一部を取り壊わしたが、右取壊し後に残つた建物(以下「本件残存建物」という。)は、台所をパブリツク・スペースとみなしても、居室が一室しかなく、かつ、浴室を欠き、住戸面積も約二三平方メートル強にすぎず、被控訴人国としては、昭和五一年以降解消することを要する住居となつたものである。しかるに、被控訴人国の機関である被控訴人署長が右計画の発足後である同年九月三日本件残存建物を控訴人の住居として適当であると認定し、措置法三五条一項の適用がないとして、本件各処分をしたが、これは、被控訴人国の行動として矛盾するものであり、同被控訴人の政策体系から逸脱し、同条同項の解釈適用を誤つたものというべきである。また、被控訴人国が、前記五箇年計画の実施に踏み切つた以上、憲法二五条所定の国民の権利は、右計画の範囲内で具体的内容をえたものというべきであるから、被控訴人国又は地方公共団体が、右権利の実現を阻害する行動は、右憲法の条項に違背するものというべく、したがつて本件各処分は、憲法に違反する無効なものというべきである。

右のように、本件残存建物が居住のための適性を欠くに至つたので、控訴人は、自分の個人会社たる訴外千代田シツピング株式会社に本件残地を賃貸し、その上に店舗兼住居を建築させ、右住居部分を右訴外会社から賃借する形をとつて、面積三四・五六平方メートル、居室二室、台所兼食堂一室、便所、浴室付という最低居住水準を充足する住居を確保するのやむなきに至つたものである。

3  原判決七枚目表四行目「本件更正」から同五行目末尾までを次のとおり改める。

「(一) 主位的請求として、被控訴人署長に対し本件各処分の無効確認を、被控訴人国に対し国税通則法五六条所定の還付金等六〇九万円とこれに対する前記納付の日の翌日である昭和五一年九月七日から支払済みに至るまで年七分三厘の割合による同法五八条所定の還付加算金の支払を、被控訴人東京都に対し地方税法一七条所定の過誤納金一七四万円とこれに対する前記納付の日の翌日である昭和五一年一一月二日から支払済みに至るまで年七分三厘の割合による同法一七条の四所定の還付加算金の支払を、被控訴人東京都大田区に対し同法一七条所定の過誤納金一一六万円とこれに対する前記納付の日の翌日である右同日から支払済みに至るまで年七分三厘の割合による還付加算金の支払をそれぞれ求め、(二) 予備的請求として、被控訴人署長に対し本件各処分の取消を、」

二  被控訴人ら

控訴人の当審における主張はすべて争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人署長に対する本件各処分の無効確認を求める訴えは、不適法として却下すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決理由記載のとおりであるから、これをここに引用する。

控訴人は、本件更正は大田区長の都民税・特別区民税に関する本件変更処分の前提をなすのであるから、控訴人がこの処分を争つている以上、本件更正及びこれに基づく過少申告加算税賦課決定の無効を既判力をもつて確定する必要がある旨主張する。しかし、控訴人が右変更処分に基づく税額全部を納付していることは控訴人の自認するところであるから、この処分に続く処分によつて控訴人が損害を受けるおそれのないことが明らかであり、また、控訴人は、本件更正及び変更処分の無効を前提として、これらに基づいて納付した税額相当額の返還を求めることができるから、本件更正並びにこれを前提としてされた過少申告加算税賦課決定の無効を既判力をもつて確定する必要はない。控訴人の右主張は採用することができない。

二  当裁判所は、本件各処分及び変更処分をいずれも適法と判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一三枚目裏一行目に「同年」とあるのを「昭和五〇年」と改め、同四行目「証人」の前に「原審及び当審における」を加え、同行目から同五行目に「甲第一六号証の一及び二」とあるのを「甲第一六号証の一、二及び当審における右証人の証言によつて真正に成立したと認められる甲第一九号証」と改め、同一一行目「証人」の前に「原審及び当審における」を加える。

2  控訴人は、「第三期住宅建設五箇年計画」において定められた最低居住水準は、憲法二五条所定の国民の権利の具体的内容をなすに至つたものと解すべきであり、また、居住用建物の一部を取り壊わしてその敷地を譲渡した場合における譲渡所得について措置法三五条一項の適用があるかどうかを定めるための基準である残存建物の住居としての適否を判断するための基準となるものである旨主張する。しかし、成立に争いがない甲第二〇、二一号証によれば、「第三期住宅建設五箇年計画」は、昭和五一年三月二六日閣議決定を経たものであるが、このような行政府の決定が憲法二五条の国民の権利内容を確定し、措置法三五条一項の解釈上の基準を設定する法的効力を有するものではないから、このような効力を有することを前提とする控訴人の主張は到底採用することができない。

のみならず、右証拠によれば、右計画は、昭和六〇年を目途に住宅の最低居住水準、平均的居住水準を定めたものであり、このような昭和六〇年に達成されるべき住宅の居住水準をもつて本件のような昭和五〇年当時の家屋の居住性の適否を判断するための基準とすることはできないものというべきである。

三  以上認定したところによれば、控訴人の本訴請求のうち、被控訴人署長に対し、主位的請求として、本件各処分の無効確認を求める訴えは不適法として却下すべきであり、本件各処分及び変更処分が違法であることを前提とする、被控訴人署長に対する予備的請求、同被控訴人を除くその余の被控訴人らに対する主位的請求(当審における新請求)及び予備的請求はいずれも理由がないものとして棄却すべきである。

よつて、民訴法三八四条、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉 三好達 柴田保幸)

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